バーチャル・ソーラハウスのシミュレーションモデルについて

 

【出典】参考文献[7]の該当章節に一部改編を加えた(2003.1) 

 

まえがき

 太陽光発電システムを導入しているユーザ(所有者)や、導入を検討している将来のユーザにとって、電気料金を毎月どれだけ節約できるのか、将来的に導入費用を回収できるのか、と言う発電量の見積もりに関する情報は重要である。太陽光発電システムを供給するメーカや施工会社から見ても、発電量の正確な見積もりは顧客に提供する情報として欠かせないだろう。グリーン電力を推進する予定の地方自治体や電力会社にとっても、自然エネルギーによる発電量を予測する技術は重要である。
 言うまでもなく住宅の形状と環境は一軒一軒異なるものであり、それに載せる太陽光発電システムの構成も多様であるから、発電量を事前に予測し、最高性能のシステムを設計することは困難である。設計段階での不確実性に加え、竣工段階での設置工事のクオリティ(質)、運転後の長期特性(劣化や故障)等、様々な不確実要因によって、システムの生涯性能は支配される。バーチャル・ソーラハウスでは、このような不確実な情報から確実なものを抽出し、残る不確実性については統計的判断にゆだねる、と言うシミュレーション手法を利用している。全国100件以上の太陽光発電システムのモニタリング計画を実施している本プロジェクトにおいて、この方法は最初に取りうる最前の方法であろうと判断した。一般的な流れとしては、シミュレーションのユーザは、屋根形状を基に設置可能な太陽電池容量を仮決定し、設置場所や方位・周囲環境などの地理条件を加味して、システムから得られる電力量の計算を試みることとした。仮決定された太陽電池容量は、投資と回収の経済評価により再度見直し、最終的な設置容量が決定することが可能である。
 [表1] に、シミュレーションに対して期待されると考えられる要件とその目的について簡単にまとめた。

 

[表1] 太陽光発電システムシミュレーションの目的

ユーザ(一般の太陽光発電システム所有者)側
 
  • エネルギー評価
(a) 発電量の事前予測
(b) 導入費用回収期間などの経済性評価
 
  • 効率評価
(c) システムが設計通りに作られているかどうかの判断(完成検査)
(d) 故障診断
太陽電池メーカ・住宅メーカ・施工会社側
 
  • エネルギー評価
(e) コストパフォーマンスの高いシステムの提供
 ※費用対効果(kWh/\またはkWh/kWp)の最大化が目的関数
 
  • 効率評価
(f) システム構成機器選定の妥当性評価

 本稿では、本プロジェクトでで開発した太陽光発電システム設計支援技術の第1バージョンについて、 そのモデルの概要と計算手法について述べる。また、不特定多数のユーザに利用され、評価を頂くためのプロトタイプについて説明する。

 


パラメータ分析法
 

 太陽光発電システムの実環境性能は、システム出力係数という指標によって評価されることが多い。システム出力係数とは、 太陽電池の定格発電効率に対してシステム全体の発電効率の割合を示した値のことであり、システムが太陽電池の銘板性能を どれだけ活かすことが出来るのかを表す指標(システム効率)である。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の 太陽光発電フィールドテスト(FT)事業における104システムを分析した結果、システム出力係数は全国平均で72%であった[1]。 また、本研究における住宅用太陽光発電システムの100件モニターの計測結果からは72%であった。
 システム出力係数が約70%程度と言うのはあくまで全国平均であって、個別には幅広い分布(約40%〜90%)を持つのであるが、裏を返せば、現在は設計の自由度が高く、 最適設計の余地が残されている、とも言える。我々はパラメータ分析法[3]というモデルを用い、システムのエネルギーフローのどの過程において 損失が発生しているのかについて分析してきた[4]
 本節では、パラメータ分析法の成果に基づき、最適設計のためのシミュレーション技術の構築方法について述べている。国内における多数のシステムの実運転状態から パラメータ分析法に基づく各種損失因子の分布を調べ、平均的なシステム像のシミュレーションを作り上げることを目的としている。

 


太陽光発電システムシミュレーションの方法
 

 シミュレーションの方法として、太陽光発電システムの物理現象を詳細に模擬するモデルの採用は、入力項目が複雑になりユーザの手間が増えるため、結果として 正確な入力がモデルに与えられずに大きな見積もり誤差を生むことが考えられる。もちろん、ユーザが手間を惜しまずモジュールの詳細な仕様(定格効率、短絡電流、 開放電圧、FF等)やインバータ仕様、アレイ配線方式等を完全に調べ上げることができればこのような物理モデルの採用は有効であろう。 しかし、一般のユーザにとっては実際上困難であるし、増え続ける多種多様な構成機器のライブラリをアップデートし続けなければならない。 そこで、太陽光発電システムの発電量を専門家以外のユーザが簡単な操作によって見積もれるよう、入力項目を必要最小限に絞り込み、 モデル本体にパラメータ分析法の各種補正係数を用いた統計的手法を採用している。
 統計モデルの利用は、シミュレーションの精度において物理モデルに原理的にはかなわないものの、ユーザ入力の簡便さからシステム構成の大略が シミュレーションに反映されやすく、ある妥当な範囲の精度(当たらずとも遠からず)で発電量の見積もりを行うことが可能である。 また、入力項目数が少なくこれらの連係もシンプルであることから、ユーザが各項目の数値を自由に変化させて発電量の調節をするなど、 最適設計の支援に用いることが容易である。
 本来、パラメータ分析法では、年単位もしくは月単位の積算値を用いて補正係数を算出しているが、日射データの任意面入射に関する換算が 時間単位の方が遙かに簡単かつ正確であるので、時間単位の計測データから補正係数を算出してモデル化した。日射量の推定モデルについては、 参考文献[6]を参照されたい。
シミュレーションでは、各種設計条件・環境条件からシステム出力係数Kを推定し、アレイ面の日射量(等価日照時間)Yr を掛け算することによって発電量Yfを推定する。

 … 式(1)

 [図1] に、システム出力係数と等価日照時間の関係を例示した通り、システム出力係数K自身、等価日照時間の関数であり、式(1)ではそのように記述している。

 

[図1] システム出力係数の日射依存性
図1.システム出力係数の日射依存性

 今、計測データからモデル化の行える補正係数、パワーコンディショナ回路補正係数KCと温度補正係数KPT と、残りの未知要因の補正係数Kothersでシステム出力係数を補正するものとする。また、簡単のため日陰の影響はないものとし、 KHS=1.0とする。システム評価のためのSV法においてはKothersをアレイ負荷整合補正係数KPM とその他の損失KOと分離し、KOについては更なる詳細分析を行っているが(5)KPM のように不規則な現象はモデル化がしにくいことから、ここでは1つの未知要因の補正係数として扱っている。
 このKothersを次の経験式によりモデル化した。日射量によらずほぼ一定となる定数項Kconstと低日射時に効いてくる指数関数項 Klowを仮定している。

 … 式(2)

 本シミュレーションは、パワーコンディショナ回路補正係数KC、温度補正係数KPT、未知の補正係数(定数) Kconst、低日射依存係数βの4つのみを用いてシステム出力係数を算出するシンプルな構造となっている。 計測さえ行われていれば前2項はそのまま正確に入力できるが、行われていない場合には最寄りの気象計測値からの推定、 同一仕様インバータの効率曲線の当てはめを行うことになる。後2項については、住宅用システムからのデータサンプリングによって統計的に決定することとした。
 未知の補正係数の決定に当たっては、住宅用システムの1時間計測値を元にサイト毎・月毎に2つの補正係数を最小自乗法により計算した。未知の補正係数(定数) Kconstの分布は [図2] の通りである。なお、JET-AIST計測の住宅システムの内、今回は多面アレイのものは外した。 ちなみに、多面アレイを外すことによって得られる効果は図2の分布が小さくなり推定精度が向上することになったが、外した理由はそれよりもアレイ面日射計測値の品質を 一面アレイのものと合わせるためである。この処理の結果、6軒のアモルファス太陽電池のシステムが外されることになった(多面アレイであったため)。 また、計測データの品質チェックを別途行い、異常値を持つ月のデータは除外した。42地点の平均を取った結果、未知要因の補正係数(定数)Kconst、 および低日射依存係数βをそれぞれ、0.90、0.01とした。

 

[図2] 未知の補正係数(定数)Kconstの頻度分布
図2.未知の補正係数(定数)Kconstの頻度分布

 


シミュレーションモデルの検証
 

 上記のシミュレーションモデルを、全国100件住宅モニターデータについて適用し、シミュレーション精度を確認した。 利用したデータはデータ品質が1年間に渡って比較的良好な1999年中のものを利用した。 2000年については、2000年問題(コンピュータのカレンダー機能の不具合)によって特に1月に欠測期間が多く、データ品質に影響があったため、ここでは利用していない。 シミュレーションモデルの妥当性を検証するためには、データ品質の似通っていると考えられる期間とサイトを選択することは妥当なものと考える。 次年度以降では、データの品質診断手法と補正手法を検討し、幅広いデータをモデルパラメータに反映することも検討する。
 等価システム稼働時間の推定は、月積算値において自乗平均誤差RMSEで8.3時間の精度で行えた。これは等価システム稼働時間の平均値の約10%にあたる値である。 この誤差の主な発生原因は図2に示した未知の補正係数のバラツキによるものと考えられる。不規則で予測しがたいアレイ負荷整合補正係数KPM がこのバラツキの原因と考えられることから、予測結果には確率的な要素を持たせて表示する必要がある。または、KPM をあらかじめ予測できるモデルの構築が必要であるため、KPMの計測を実現する必要がある。

 

[図3] 月積算発電量推定値の分布

 もし、このKPMの影響を事前に取り除くのが可能であれば、シミュレーションの精度は更に高いものとなる。 以下には、サイトに特有のローカル因子として考えられるKPMと日陰補正係数KHSについて事前に評価し、 これらを取り除いたシミュレーション精度について記述する。ちなみに、KPMKHSの事前評価には、東京農工大学と産総研で開発し、 現在は東京農工大学が中心となって開発を進めているSV法[1][2]を用いた。閾値としては、それぞれ0.95(95%)を用いた。
 このような条件によりサイトの選別を行うと、図4のように、散布図には推定値と実測値の収束性の良いものだけが残された。 推定誤差の度数分布を調べるとほとんどの月で±10%の誤差の範囲に入っていることが分かった(図5参照)。 推定誤差の特に大きい(10%を超える)サイトについて抽出すると、次のようなことが分かった。

  1.  最も誤差の大きいサイトの原因は、冬季のパネル面への積雪が原因であった。日射計が雪に覆われなかったのでシミュレーションでは発電量を過大評価し ていた。
  2.  次に誤差の大きいサイト2地点については、太陽電池モジュールの出力がハンダ不良によって実際の定格値よりも小さくなっていたことが原因であった。 後日このモジュールはメーカによって交換された。
  3.   この他、シミュレーションが過大推定しているサイトについては、インバータの停止や不良が原因であった。 このような突発的な事象については、シミュレーションには反映できなかった。
  4.  シミュレーションが過小評価しているサイトについては、アモルファス太陽電池モジュールを利用しているサイトであり、 モジュールの定格値の設定が実際の出力よりも大きめとなっていることが原因であると推定された。

 上記のように、シミュレーション精度が著しく悪いサイトについては、モジュール出力定格値の変化やインバータの停止など、 シミュレーションの設定には反映できない条件が加わっていることを確認した。言い方を変えると、±10%の閾値においてシミュレーションの精度を分別することにより、何らかの個別の異常を持つシステムを検出することが可能であった。

  

[図4] 月積算発電量推定値の分布(KHS>0.95且つKPM>0.95の場合)
図4 月積算発電量推定値の分布(KHS>0.95且つKPM>0.95の場合)
 
[図5] シミュレーション誤差の度数分布(KHS>0.95且つKPM>0.95の場合)
図5 シミュレーション誤差の度数分布(KHS>0.95且つKPM>0.95の場合)

 


バーチャル・ソーラハウスの紹介
 

 これまでに述べてきた設計支援技術(シミュレーション) を不特定多数のユーザに検証されることを目的として、インターネット上にシミュレーションツール、「バーチャル・ソーラハウス」として公開の準備をした。 現段階ではまだバージョン1についてのプロトタイプであるが、このプロトタイプは次のような特徴を持ち、 太陽光発電の購入を検討している一般消費者が太陽光発電の発電量を事前見積もりできるようになっている(統計計算)。 また、気象データを単年毎に利用することによって、過去の某日の発電量の予測を行うことが出来、既に太陽光発電システムを所有しているユーザが、 自分のシステムの発電実績と予測値を比べることが可能である。

  •  設置地点を選択するだけで発電量の統計予測(平均、最大、最小、標準偏差)と単年予測を行うことが可能である。 気象データはツールによって自動的にセットされる(最寄り気象官署の全天日射量データが読み込まれる)。
  •  発電量のみならず、システムの性能指標(システム出力係数)や、インバータ等の損失量推定値を表示可能である。
  •  4面までの複面アレイに対応している。各面は独立して方位角と傾斜角を設定可能である。
  •  インターネットブラウザ上で推定結果が表示される他、ネットワーク上の文書交換において事実上の標準となっているAcrobat PDF形式による 評価レポートの作成が可能である。
  •  日陰の発生時間についてカレンダー設定が可能である。将来的には、魚眼推定モデルと統合する部分である。

 

[図6] バーチャル・ソーラハウスの出力例(左:システム設計画面 右上:統計値 右下:単年値)

 


参考文献
 

[1] Kurokawa et al., "Realistic PV performance values obtained by a number of grid-connected systems in Japan", North Sun '99, the 8th International Conference on Solar Energy in High Latitudes, 1999
[2] 大谷他、「住宅用太陽光発電システムの運転特性評価」、電気学会 新エネルギー・環境研究会 FTE-00-5(2000)
[3]  PVTEC監修、黒川、若松共編:太陽光発電システム設計ガイドブック,オーム社(1993)
[4] 平成8年度NEDO委託業務成果報告書「太陽光発電システム評価技術の研究開発」(システム評価技術の研究開発)別冊「太陽光発電システム設計マニュアル」
[5] 山口他、SV法による太陽光発電システムの損失因子の詳細化、平成12年電気学会全国大会(2000)
[6] 日本気象協会、平成7年度NEDO委託業務成果報告書「太陽光発電利用システム・周辺技術の研究開発(最適設計のための気象データの調査研究)」、1996
[7] 産総研、電気安全環境研、平成13年度NEDO委託業務成果報告書「太陽光発電システム評価技術の研究開発」、2002

 


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